
千葉県で印旛沼に次ぎ2番目に大きな湖である手賀沼は、かつての水質ワースト1を脱却して24年経つ今もゴミや外来種被害に悩まされている。かつて「日本一汚い沼」と呼ばれていたイメージを改善するため、地元自治体は清掃活動やイベント開催の取り組みを進め、地元住民も「昔に比べ断然過ごしやすくなった」と話す。
深刻な外来種被害

今ではトライアスロンが行われるほどに綺麗になった手賀沼だが、かつては生活排水の流入によって水質の汚濁が進行し、環境庁(現環境省)の調査が始まった1974年から2000年までの間、河川、湖沼、海など多くの人が使う水域である「公共用水域」の水質測定結果では全国ワースト1位を記録し続けた。下水道の整備や浄化槽の設置などの水質浄化事業によって改善されてきてはいるものの、他の問題にも悩まされており、悪いイメージは少なからず残っている。
現在、手賀沼が悩まされているのが、様々な外来種による被害だ。「その中でも、オオバナミズキンバイとハクレンによる被害が大きい」。そう語るのは、手賀沼の環境整備を担当する我孫子市役所手賀沼課の湯下友美さんだ。オオバナミズキンバイはアカバナ科に属する繁殖力が非常に高い植物であり、茎や葉の断面からでも再生するため、簡単に駆除することができない。そのため増殖は止まらず、船の航行障害や、水質悪化による魚の死滅といった被害が報告されている。

ハクレンはコイの仲間で、ジャンプする姿が有名な魚だが、水上アクティビティが盛んになってきた手賀沼では人や船と衝突し、人が怪我をしてしまう被害が発生している。また、死骸が強烈な悪臭を持つ魚でもあり、産卵の終わる5月ごろには水流によって死骸が特定の場所に集まり、周囲に生臭いにおいを放っている。ハクレンの死骸の撤去にあたった際のことを振り返って湯下さんは、「しばらく臭いが取れなかった」「3か月は魚を食べる気が起きなかった」と話した。
こういった外来種は、繁殖力の高さや駆除の難しさから完全に絶滅させることは現実的でなく、そのため長期にわたる地道な活動が求められている。
市民にできることは
多くの人の努力によって手賀沼は人気を取り戻してきているが、訪れる人が増えたことによる問題も発生している。一つはごみ問題だ。手賀沼周辺にごみが放棄されることがあり、直接手賀沼に捨てられていなくても雨水などによって流され、手賀沼に集まってしまう。酷い時には原付バイクが捨てられていることもあったという。原付バイクのようなものは所有権の問題から勝手に処分することができないため、湯下さんたちは対応に悩まされている。他のごみに関しても、定期的に清掃をしてはいるものの、回収されるごみの量はなかなか減っていないのが現状だ。湯下さんによると、サイズの大きなゴミなどはすぐに回収することができない場合があり、放置していると水流や風によって流されて見失ってしまうことがあるという。そうならないためにもごみの場所を把握している必要がある。

実情を市民に知ってもらうためにも、手賀沼流域の自治体では年に一回、「クリーンデイ」という活動がある。市民と行政の協力のもと手賀沼の清掃を行うもので、我孫子市、柏市、白井市、印西市で実施されており、2024年で22回目の開催となる。参加者は子供からお年寄りまで幅広く、2023年は456人が集まり、828㎏ものゴミが回収された。また、手賀沼が現在抱えている問題の中には、新たに参入してきた水上スキーなどのモーターを使用する水上アクティビティと、釣りやカヌーなどの他のアクティビティとの住み分けもあり、解決には実際の市民の声が必要になる。湯下さんは、「手賀沼に関して気になることがあれば、情報提供してもらうことが改善のために大きな力になります」と話した。
「興味をもってもらえれば」
手賀沼沿岸に位置する手賀沼公園には遊具や生涯学習センターの「アビスタ」が設置され、様々な年代の人が訪れる。我孫子市で暮らし始めて30年ほどの鈴木和子さん(77)は現在の手賀沼について、「沼の環境や公園のベンチ、地面なんかが綺麗に整備されているおかげで昔より断然過ごしやすくなった」と話した。また、鈴木さんによると、最近では学生や家族連れを見ることが増え、手賀沼に訪れる人は増えているように思えるという。
手賀沼流域の小学校では、「ふるさと手賀沼」という教材が配布され、手賀沼に関して学習する時間が設けられている学校もある。また、柏市内では約30校もの小学校が手賀沼での船上学習に参加しており、単に歴史や背景を学習するだけではなく、五感で自然を感じられる機会がつくられている。このように子供の頃から手賀沼を身近に感じられる環境が整えられていることに加え、生き物の観察会やワークショップなど、世代を問わず楽しめるイベントが毎週のように行われている。こうしたイベントに関して湯下さんは、「花火大会やマラソンなど、どんなところからでも手賀沼に興味を持ってもらえれば嬉しく思います」と話した。