生成AIが学生の学習や生活に深く浸透し、文章作成から日常のやり取りまで幅広く活用される時代。早稲田大学大学院教育学研究科の田中博之教授は、学生がAIを使用したプロセスや自らの思考を可視化する、今の時代にふさわしい課題として、「メタ認知レポート」を提案。AIとの対話を通じて自らの思考を振り返り、AIとの共作によって学生の創造力を伸ばす授業を実践する。一方、早稲田大学基幹理工学部4年の曽根朝陽さんは学生としてAIに精通。AIを「なんでも屋」と評しつつも、丸投げではなく自らの理解や目的を明確にした問いをAIに立て、使いこなす重要性を強調する。
AI使用を前提としたレポート「メタ認知レポート」
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「今の時代、レポートに対して生成AIを使うなという指導は現実的ではない」。そう語る田中教授は、教育学を専門とする。担当する授業では、むしろ生成AIを活用することを前提に課題が設計されている。その象徴が「メタ認知レポート」だ。メタ認知とは「一つ高い自分から自分を俯瞰すること」。このレポートでは、学生が生成AIと対話した履歴をもとに、どのようにAIを使ったか、自分の思考がどう深まったかを分析し、その要約が求められる。実際に田中教授が行った授業では、教育学の一環として、学生に自分が教師になった時を想定して生徒を指導するための「ルーブリック表(評価基準の一覧表)」の作成を求め、その際にChatGPTを活用。この授業のレポート課題として、プロンプトの内容やAIとのやりとりを記録し、それらをメタ認知的に振り返ってレポートにまとめるといったものを提示。AIに代筆させるのではなく、自分が考えているという意識を持たせることが重要であると田中教授は強調する。
AIと共作 丸投げの危険性
生成AIと対話しながら文章やアイデアを組み立てるプロセスは、人間のクリエイティビティを伸ばす側面もある。自らの考えにAIから得た提案を加えることで、より洗練されたアイデアや表現へとつながっていく。しかしAIが嘘をついている可能性もあるので、しっかりとしたファクトチェックは必要だという。正しい使い方をすればAIが人間の想像力をかき立てる一方で、「AIに丸投げしてしまえば、学生の思考力や創造性が失われてしまう」と田中教授は警鐘を鳴らす。だからこそ、AIにより検索機能が進歩した現代において、単に調べてまとめるだけで書けてしまうレポート課題は教員は避けるべきだと訴える。その上で、これは学生の実力を図ることが出来ない試験やレポートを提示する教員側の問題として見直されるべきであると指摘する。「メタ認知レポートのように、AIを使用したプロセスや思考の軌跡を可視化する課題を出すことが、AIが当たり前のこの時代にふさわしい教育方法である」と田中教授は語る。
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「学びにAIを使わない学生の方が少数派」現役学生の実感
では、実際の学生はどのようにAIを活用しているのだろうか。早稲田大学基幹理工学部4年の曽根朝陽さんは、学生団体「早稲田総合研究会(早総研)」のAI研究部部長として活動している。「今では、ChatGPTなどの生成AIを使ったことがない学生の方が少数派だと思う」と語る曽根さん。文章作成や翻訳、プログラムの生成、要約、校正、画像生成などが一般的な活用法だが、上級者になると音声や動画の要約、英会話練習、テスト予想問題の作成、スライド作成、検索の自動化など、多岐にわたる分野で使いこなしているという。しかし「どれほど使い慣れているか」、「活用方法についてどれくらい知っているか」などによって学生の間で差も出てくると話す。
大学のレポート課題すらAIに丸投げできてしまう時代。そのことに対し曽根さんは、「丸投げして、ある程度の回答を返してくれるくらいの性能を持つAIが多くの学生に均等にわたっている。このことについては、それほどにテクノロジーが普及しているということでありいいことだと思う」。ただし、丸投げについては「もったいない」。AIをただ使うのではなく、使って自分の可能性を広げることが大切だと強調し、そのために必要なのが「問いの投げ方」だという。自分の理解度や目的を明確にし、「何に困っているのか」「アイデアが欲しいのはどこか」を再定義したうえでAIに伝えることが、良質な回答を得て自分も成長するための鍵となる。
AIはなんでも屋 学習以外でも活躍
曽根さんはAIの活用は学習の枠を超えて、日常生活にも広がっていると話す。「LINEの返信、SNS投稿のデザインや戦略立案、画像生成、投資やトレンド検索など日常使いするものへの活用や、我々の知らないところでもYouTubeやSpotify、Amazon、TikTokなどのデジタルプラットフォームのおすすめ機能に使用されている」。曽根さんは、生成AIは、困った時に頼れるなんでも屋と例える。AIは自分の知らないところでも、私たちの生活を支えている存在である。学生はこれからAIとどう向き合っていくべきか。曽根さんは次のように考える。「AIを自分の拡張機能として使いこなすことが大切。すべてを鵜呑みにせず、あくまでも自分が主体であるという意識を忘れてはいけない。AIに問題を投げる力、AIから得た情報を使う力が、これからの学生に求められる」。