2025年10月19日日曜日

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コメ高騰 ワセメシに影響

仕入れ値3倍の店も

「学生のため」値上げは最低限に

 社会問題となっているコメ高騰の影響は「ワセメシ」にも大きく及んでいる。「ワセメシ」とは、早稲田大学周辺の飲食店を指し、安さとボリュームで日々早大生のお腹と心を満たしている。だがここ1年、コメが高騰し、中には仕入れ値が高騰前の3倍となっている店もある。ワセメシ全体で苦しい状況が続く中で、各店舗は「学生のため」と、値上げを最低限に抑えるための工夫を行っていた。ワセメシの店主たちの、利益が減る中でも安さとボリュームを残すための様々な工夫や、そこにかける想いを追った。

アプリ導入や弁当販売で「前向きな対策」

 大隈通りにある定食屋「モンスターズキッチン」はコメの高騰に伴い、3~4月にメニュー全体を100円ほど値上げすることに踏み切った。また、それまで取り扱っていた茨城県産の国産米に代わり、4年ほど前からお店で一部取り扱いのあった「カルローズ米」という、日本米の種もみをカルフォルニアで育てた品種を全面的に使うことで、コメにかかる費用を抑えているという。店長の花田富樹さん(42)によると、国産米からカルローズ米への切り替えは、メニューの値段への影響を抑え、かつ同店が続けてきたご飯おかわり無料の制度を継続するため、スタッフや常連客の意見なども取り入れた末、至った決断だったという。

「モンスターズキッチン」店長の花田富樹さん(左端)とスタッフ(2025年7月4日午後16時13分、東京都新宿区西早稲田のモンスターズキッチン)松本真子撮影

 しかし現在、そうした米国米のカルローズさえも値上がりしており、当初同店が業者と取り決めた値段が一袋分1000円ほどだったのに対し、今は3000円ほどになっている。「シンプルに3倍」という花田さんの言葉からは、今日のコメ高騰問題の深刻さがうかがえる。現在コメ以外にも、肉や魚、調味料などの材料から電気、ガスまでが値上がりしており、花田さんは「シンプルに商売を取り巻く環境が厳しくなってる」とも話す。

 モンスターズキッチンでは、値上げしてから数か月経つ現在、想定している原価率や利益率になんとかギリギリ達しているか達していないかほどの状態に戻せたとはというものの、厳しい現状であることには変わりない。しかし花田さんは、「学生街に開業したので、学生さんのお財布にも優しい定食屋を常に目指している」と話し、値上げ幅を増やすのではなく、他の部分で調整をするなど、「前向きな対策」を行っているという。

 その一つが、ご飯のおかわり無料の制度に、公式アプリをダウンロードしてもらうという過程を条件として加えたことだ。そうすることで、「どちらでもいいが、無料だからおかわりしておこう」という考えを抑制することができているのに加え、アプリ上でモバイルオーダーやクーポンの配布が可能になり、顧客の囲い込みにもつながっている。また、大学内で販売する弁当の個数や、その販売箇所を増やすといった対策も行っている。花田さんによると、「そこで売れた分も、もちろん本当は利益に戻したい」というが、「今のお値段のまんまお客さんに出すことが学生のお客さんの皆さんに喜んでもらえることなのであれば、お店のコンセプトに合ってるので、それはいいのかな」と話し、価格はそのままに販売数を増やすことによって、材料費の値上がり分をカバーしているという。

問屋6軒巡り、少しでも安くてよいものを

利益が減っているのが現状だと話す「キッチン南国」の店主石井直樹さん(2025年5月23日午後15時20分、東京都新宿区戸塚町のキッチン南国)松本真子撮影

 早稲田大学南門のほど近くにある定食屋「キッチン南国」も、コメやその他の材料費の値上がりに伴い、様々な工夫を行っている店の一つだ。3月の終わりに一度各メニュー50円の値上げを行ったというが、店長の石井直樹さんは、「全体的に見れば50円では足りない。利益が減っているのが現状」だと話す。それでも、「学生街だからボリュームが売り。減らすわけにもいかない」と話す石井さん。都内の問屋を何軒も回り、少しでも安いものを仕入れたり、問屋によって仕入れるものを変えたりすることによって、量も質も落とさずに料理を提供することができているという。その結果、仕入れ先の問屋の数は、以前の2軒から、現在では6軒にまで拡大している。

サイドメニュー増やすなどの取り組みで対応

【左】おにぎり屋「かわしま」とスタッフ(2025年6月13日午後15時40分、東京都新宿区西早稲田のかわしま)松本真子撮影
【右】100円の値上げでは追い付かないと話す「かわうち」の店主渡部雄一さん(2025年6月11日午後14時22分、東京都新宿区西早稲田のかわうち)松本真子撮影

 同様の声は、早稲田通り沿いの定食屋「かわうち」や、西門を出てすぐの場所にあるおにぎり屋「かわしま」でも聞かれた。かわうちの店長渡部雄一さん(64)によると、かわうちでは渡部さんの地元福島県の農家からコメを仕入れているが、高騰前までは価格が送料込みで1キロ2400円ほどだったのに対し、今は3200円ほどに上がっているという。それに伴いメニューを100円ほど値上げしたものの、コメ以外の材料費の値上がりも含め総合的に考えると利益は少なくなっており、「100円値上げたくらいでは追い付かない」と深刻な面持ちで話す。一方、かわしまでも、7月からメニュー全体の20円の値上げに踏み切った。店長の川島亮人さん(32)は、「学生なのでなるべく安くできたらいいな」と話し、原価率がどうしても高くなってしまうおにぎりに加え、サイドメニューの種類を充実させたり、人件費をコントロールしたりするなどの手を打ちながら今日のコメの高騰に対応しているという。