世界各国で性の多様性が謳われている現代において、日本は先進国の中でも群を抜いて同性婚に関する法整備が遅れている。NPO法人「EMA日本」の調査によると、G7で国として登録パートナーシップすら認められていないのは日本だけだ。2023年2月時点で、同性婚や登録パートナーシップなど同性カップルの権利を保障する制度を持つ国や地域は世界の約22%の国・地域に及んでいる。高校時代をオーストラリアで過ごした髙田楓加さん(23)はトランスジェンダーとして、様々な場面で日本と海外の間に存在する「差」を、身をもって体験してきた。日本は制度面で圧倒的に後れを取っているが、同性婚やLGBTQに対する一般大衆の感覚では他国に後れをとっているわけではないという。様々な体験を踏まえて、日本における性の多様性の広がりへの想いを語った。
自分の性に覚えた違和感

髙田さんは女性の身体で生まれてきたが、性自認は男性というトランスジェンダーである。恥や苦痛など様々な思いを抱きながら幼いころから中学生までの時期を過ごしてきた。4歳の時に初めて「なんか違うかも」と自分の身体に違和感を覚えたが、当時は幼さもあってかまだそのことを意識して生活することはなかった。しかし、小学生になり性別というものを意識するようになると苦痛を感じること増えてきたという。中でもプールの時間は男女別に着替えをすることが必要で、「女子の中で着替えをしなきゃいけないことが凄く恥ずかしくてしんどかった」と話した。
小さい頃から続けていたサッカーを続けるため、サッカー部の活動が盛んな江戸川女子中学校に入学することを決めた。今でこそスカートかスラックスかを自分で選択できる学校が増えており、江戸川女子中学校もその1つだが、当時はスカートを着用する選択肢しか存在せず、「本当に恥ずかしくて嫌だった」と振り返った。一方で、髙田さんがトランスジェンダーであることを周囲の友人に打ち明けても、「楓加は楓加だから」と今までと変わらず接してくれたという。
オーストラリアでの出会い、そして結婚
中学生までを日本で過ごした髙田さんだが、自分の意思で高校3年間はオーストラリアで過ごすことに決め、そこで髙田さんは現在の配偶者と出会うことになる。相手方の意向により詳細を記述することはできないが、とある洋服店で出会った女性に一目惚れをし、徐々に関係を深めていったという。恋人の関係になる前に、自分がトランスジェンダーであることを打ち明けると「楓加だから好きになった。性別は関係ない」という言葉をかけて貰ったという。当時を振り返り、「友達の関係とは違って、お付き合いをするとなるとハードルの高さがまた変わってくる。自分を受け入れてくれてすごくありがたかった」と語る。そして2022年、オーストラリアで彼女と籍を入れた。オーストラリアでは、結婚する際に性別を選択することができ、その時の性別は戸籍上のものと異なっていても問題はないのだという。
日本でも結婚したい
大学二年生の時、髙田さんはタイで性別適合手術を受け、日本の家庭裁判所でも性別の変更を認められて戸籍上でも男性として生きていくことができるようになった。そこで、日本でも籍を入れようとしたところ、オーストラリアで結婚した当時、日本の戸籍上では女性として結婚したため事実上同性婚であり、日本でも結婚をしてしまうと、同性婚を認めたことと同義になるため籍を入れることはできないと言われたという。

このようなことは本当に起こりうるのか。性的少数者の法的サポートに注力している諏訪の森法律事務所の中川重徳弁護士の見解では、法律の解釈によっては髙田さんのようなケースも起こりうるという。「民法や戸籍法において、『夫婦』とは、婚姻の当事者である男である夫及び女である妻を意味しており、同性婚は認められておらず、同性婚をしようとする者の婚姻の届出を受理することはできない」という政府の見解が、逢坂誠二衆院議員の質問主意書への答えとして示されており、これを前提に、「形式的にとにかく建前を重視して物事を当てはめていく」と、「現時点で法律上男性と女性という関係であってもオーストラリアで結婚した当時は女性同士であり、それを日本の法律に照らすと矛盾してしまうという法解釈なんだと思います」と話した。
この状況を乗り越えるためオーストラリアでいったん離婚することも選択肢になり得るが、これにはお金が必要であったり別居していなければならなかったり、カウンセリングを受けなければならなかったりとかなりハードルが高く、易々とできるものではないという。また一方で、現状のオーストラリアでの結婚を維持した場合でも、それだけでは彼女と日本で生活するために必要となる配偶者ビザが日本政府から得ることができない。同性婚の場合には、配偶者として認めることはできないとしているのである。2022年に特定活動ビザがおりたが、期間が一年と短く更新の手間もかかるため、「早く永住ビザが下りるようになってほしい」「日本でも普通に結婚できたらいいな」と髙田さんは訴える。
次世代への期待
日本の同性婚に対する法や制度は、髙田さんにとって非常に大きく重大な壁となっているが、対人関係の面では、LGBTQ当事者にとって日本は他国と比べて過ごしやすい国だという。「日本が無宗教の国なことがとても大きい」と髙田さんはその理由を語る。海外では、宗教的なものの考え方により同性愛者であるだけで差別の対象となってしまい、LGBTQであることをカミングアウトすると殴りかかられたりごみを投げられたりと直接的にいじめを受けてしまったりするケースもあるといい、海外での安易なカミングアウトは危険を伴う場合もあると髙田さんは指摘する。
一方で、「日本では宗教による差別的な考えが基本的にないから、もちろん人や地域によって変わってくるけど(日本は)カミングアウトしても受け入れてもらいやすい」という。そしてやはり年齢が高い人々よりも若年層の人々の方が受け入れてくれやすいとも髙田さんは話す。同性婚を認めない事を違憲とする裁判所の判断も最近になって増えてきていることや、LGBTQに理解を示す人の多い今の若い人々が政治を行う時代が来ることを考え、「今の日本は本当に遅れているけど、これから日本が変わっていくことは期待できる」と当事者の目線から日本への想いを語った。