少子化にもかかわらず、全国の不登校児童数は増加を続け、2023年度には過去最多の34万6482人となり前年度から15.9%も増加した(文科省調べ)。教師だけでは子どもたちの健康状態の保持や正確な体調管理に限界があるのが現状だ。元小学校教諭の廣瀬貴樹さんは支援団体である「かけはし」で不登校の子どもたちを支援する。一方、子どもの発達科学研究所では、科学的アプローチを通して不登校の課題に向き合い、子どもたちの心身の不調に気付いて不登校になる前に予防する取り組みを進める。
子どもたちの居場所

いずみ野線いずみ野駅(横浜市泉区)から徒歩5分の住宅街に不登校の子どもたちの場「ハートフル西部/まなべる居場所かけはし」はある。駐車場脇で水遊びをする子どもたちの元気そうな声が響き渡る中、入り口のドアを開けると開放感のある部屋で子どもたちがスタッフと共にそれぞれの活動に励んでいる。ここを運営するのは廣瀬さんが代表を務める一般社団法人かけはしで、何らかの理由で学校に行けなかったり、あるいは行かない選択をした子どもたちが集まって活動している。現在は約50名の小学生から中学生までの子どもたちが在籍しており、スタッフ10名とインターン生2名、ボランティアによって運営される。

廣瀬さんは、かつて小学校教諭として学校に勤めながら、毎年のように生きづらさを感じたり、苦しんでいる子どもたちと出会ってきたという。「そのような子どもたちに少しでも自信を持ってもらいたい、自分はどんなことができるだろうかと考えながら教師をしていました。しかし、1人でできる量を遥かに超える仕事量がある中で、学校の中だけでは、十分に支援しきれない部分があると痛感していました。」そのような思いのもと、教諭を辞め、学校外に子どもたちの居場所となれるような場所として2021年に自ら児童支援団体であるかけはしを設立した。
自分の「好き」「得意」見つけて
「かけはしでは、子どもたちの意思を最優先に活動しています。何をするのか、何をしないのか、かけはしでの活動内容を子どもたちの自己判断に任せ、自発的に『好き』や『得意』を見つけ、その子らしく社会の一員として生きていけるような力をつけて欲しいと考えています。」と廣瀬さんは語る。かけはしでは、その日一日の活動内容は子どもたちがそれぞれ決め、それをスタッフがサポートする。時には学習支援に留まらず、子どもたちのやってみたいと思うことを地域の人と連携して、体験する機会を設けている。6月には子どもたちの要望に応えて、ザリガニ釣り体験が行われた。

廣瀬さんは、「子どもたちがかけはしに来るようになってから、自分自身を認められるようになってきたことや、得意なことを見つけられるようになっている姿が見えた時はとても嬉しく感じます。」とかけはしでのやりがいを語った。しかし、不登校問題そのものについては、現代だからこその難しさを感じているという。「SNSの普及などの時代的な変化の中で、不登校そのものがより普遍的なものとなってきていると感じます。」と述べ、さらに「誰にでも起こりうるものとして不登校問題は存在しているのに、社会の中では不登校に対する否定的な捉え方が一般的で、そのこともまた子どもたちに追い打ちをかけるように自己肯定感を下げてしまう原因となっています。だからこそ、社会全体でどのように子どもたちを守っていくのか、考えていかなければならないと思います。」と語る。
「その前」にアプローチ
廣瀬さんのように支援によって不登校児童に寄り添う団体がある一方、「不登校児童になる前」にアプローチを試みる取り組みもある。公益社団法人子どもの発達科学研究所では、不登校になる根本原因に早い段階で気づき、不登校となること自体をまず防ぐことを目指している。
文部科学省からの委託を受け、子どもの発達科学研究所によって行われた「不登校の要因分析に関する調査研究」では、児童生徒と教師、生徒と保護者の比較や、不登校児童とそうでない児童の比較などを通して、不登校と関連のある事象について研究がなされた。報告書によると、主に、いじめ・友人関係のトラブル・学習ストレス・生活リズムの乱れといったものに加え、学校風土の影響や心身の不調よって子どもたちが学校に行くことに抵抗感を覚えたり、学校に居場所がないと感じる原因になってしまっているという。この研究では、学校に通っている児童の日常的な指導支援の充実、学校風土の向上などのケアをすることで、不登校の要因を生じにくくすることが問題解決の糸口とみる。従来までの、学校に行けなくなってからの支援ではなく、未然防止に力を入れることで根本的な問題解決に力を入れていこうというのである。心身に目に見える問題が起きていない段階に着目する支援方法は、支援をしながら、それへの結果を見てさらなる手立てを行う「RTIモデル」(Response To Intervention Model)に基づいている。「RTIモデル」は、個々が必要とする支援の大きさに従って、段階をTier(層)1からTier3までに分類し、その人の状態に合わせて支援する。Tier1は、何も問題が起きていない状態。Tier2、Tier3となるにつれ、さらに個別性の高い支援が必要となる。本質的な不登校問題の解決に求められるのが、このTier1へのアプローチだと、同研究所はみる。
気付きにくい変化 ツールが記録
同研究では、友人関係におけるトラブルや学習ストレス、生活リズムの乱れなどは、子どもたちの心身に大きな影響をもたらすにもかかわらず生徒と教師の間で認識にズレが大きいという結果が出ている。日頃から生徒と接している教師たちでも子どもたちの状態を正確に捉えることは難しいという。さらに研究員の石橋さんは、問題の起きていない子どもの「問題の起きていない状態を保持していくことが大変難しい」と明かす。問題がない状態を保持するために何をすべきか分かりにくく、そこへの研究の必要性があるのだという。このような支援の難しさがある中で同研究所が提案するのが、科学的視点からのアプローチだ。
「例えば、研究結果に基づいたツールを毎日学校で行われる健康観察に活用することによって、従来では教師が気付きにくかった変化なども記録し、サポートできるようになると期待できます。」学校風土の改善や教師が発見しづらい心身の不調を早期発見する仕組みづくりを科学的ツールを使用して行っていくことで子供の心身の健康維持に活用する事が有効的であると研究所はみている。「デジタルデバイスが生徒1人に1台支給される学校が多い近年では、こういったデジタルデバイスに科学ツールを導入し、日々の健康観察を行っていくことが効果的だと考えています。デジタルデバイスに加えて、教師の経験なども踏まえて子どもたちと向き合っていくことで、子どもたちへの強い支援になると期待しています」とさらなる支援のあり方を語った。
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