早稲田大学早稲田キャンパスの昼休み。教室から次々と学生があふれ、14号館の生協パンショップ前にも長蛇の列ができる。そんな中、利用者を増やしているのが「セルフレジ」だ。
「今では1日の利用者約1700人のうち、4分の1がセルフレジを利用しています」と語るのは、早稲田大学生活協同組合専務補佐の松葉哲史さんだ。
混雑時、レジ要員を補う
14号館パンショップでは、2024年4月からレジ7台のうち2台をセルフレジとして稼働させている。松葉さんによると、導入のきっかけは、単なるコスト削減ではない。混雑する昼休みや、夕方の人手が少ない時間帯のレジ要員を補うことが主な目的だった。

(2025年6月19日11時28分、東京都新宿区 早稲田大学生協本部会議室)柴山朝香撮影
このセルフレジ2台は、大学生協の電子マネー「生協Pay」専用としており、現金管理の手間を省くことができ、釣銭準備やレジ締め作業の負担も軽減されている。省スペースでも対応できる点も大きく、特に短時間で多くの利用が集中する昼休みには、スムーズな流れを生み出すことに一役買っている。
学生の行動にも変化が
2020年のコロナ禍では、学生は自宅でオンライン授業を受ける生活を余儀なくされた。その後、制限の緩和とともに対面授業が増えた2024年には、生協の利用者数も全体的に回復してきた。それに伴い、品揃えにも変化が見られるようになった。
「焼きたてパンの製造数を増やしたことで、購買数も伸びました」と松葉さんは話す。
14号館の生協が他のコンビニと一線を画している点は、焼きたてパンの販売にある。焼きたての香りに誘われて足を運ぶ学生も多く、生協に通う大きな魅力の一つとなっている。
早大生協によると、2025年5月から6月にかけての支払い方法の内訳は、生協Pay(ミールカード・学食利用を含む)が全体の51.3%を占めており、現金(25.5%)、クレジット・交通系IC(23.5%)を大きく上回っている。こうした独自のサービスと決済の利便性が、生協の利用を後押ししているといえる。
スタッフ業務の変化と課題
セルフレジの導入によって、スタッフの業務にも変化が生じている。人手の少ない時間帯でも商品管理や発注作業に集中できるようになったほか、現金の確認作業が減ったことで負担も軽減されている。
とはいえ、全体の利用者数は増えているため、単純に業務量が減ったとは言い切れないと松葉さんは語る。有人レジが必要とされる場面も多く、特に昼休みの混雑は依然として激しい。ピークを過ぎた午後には、セルフレジ2台と有人レジ1~2名という態勢で、柔軟な対応が取られているという。
4月の新学期には、セルフレジ前の新入生から「購入したいパンの名前が分からない」「商品を1つだけ取り消したい」といった問い合わせが多く寄せられる。また、「生協Pay専用」と知らずに現金を持って並んでしまうケースも少なくないという。
万引き抑止、鍵はホスピタリティ ——専門家指摘
一方、セルフレジという人目のない仕組みが客の万引きを誘発してしまうリスクも気になりそうだ。セルフレジ万引きの実態を長年研究してきた香川大学教育学部の大久保智生教授は「セルフレジを入れるとロスは確実に増える」と指摘した。

もともと、万引きにはやられる場所が決まっているという現場の鉄則がある。店員の視線が届かないホットスポットでは不正が生まれやすい。逆に、スタッフの目の前で商品を盗む客はいない。
だがセルフレジは、この場所の概念を一気に崩してしまう。
セルフレジの最大の問題は、言い訳が成立する空間になりやすい点であると大久保教授は指摘する。バッグに商品が入っていても「会計するつもりだった」「スキャン音が聞こえなかった」——そんな言い訳が機能してしまう。つまり、従来の売り場での万引きとは異なり、セルフレジでは不正の正当化が極めて容易になる。結果として、万引き客は店内の陰からレジそのものへと舞台を移し、不正行為は最終工程で起こるようになるのだ。
万引き防止の鍵とは
大久保教授が強調したのは、防犯対策の核心は「ホスピタリティ」にあるという逆説的な視点だ。店舗は本音では疑っているが、それを顧客に悟られることを避けたがる。だからこそ、「疑う」より「ホスピタリティのある接客をする」方がはるかに効果的だと教授は語る。
実際、万引き犯は見られている感覚を何より嫌う。店員が近くにいて、困っていれば自然に声をかける。その姿そのものが周囲へのメッセージとなり、犯罪を未然に遠ざける強い力を持つ。
ホスピタリティの高い店員は、接客だけでなく防犯の前線にも立っている。地域で人と人の関係が密に結びついている場所に犯罪が起きにくいのと同じ原理だ。
取材を終えて 〜記者から
変わりゆく購買のかたち
インタビューを通じて見えてきたのは、セルフレジという仕組みが学生の日常に確実に根付きつつあるという現実だ。トラブルの声もある一方で、多くの学生がその利便性を受け入れ、生協の利用を日々の生活の中に自然と取り入れている。
このような流れは生協にとどまらず、コンビニやスーパーといった身近な小売店にも広がっており、セルフレジはすでに人々の日常の買い物風景の一部となっている。
それだけに、万引きという暗い影を追い払う必要がある。大久保教授は「万引きとして表に出るのは氷山の一角に過ぎない」と語った。実際には、知られていない深刻な被害がある可能性がある。被害を減らし、防ぐ上で、セルフレジが一般化しつつある今こそ、店側の“見ているよ”という気配と客を気にかける姿勢こそが犯罪防止の鍵を握るということが強く印象に残った。(柴山朝香)
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