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地元野菜で人をつなぐ

奮闘する東京・練馬の農家たち

農地減少、人手確保に課題

 東京都の農地が減少する中で練馬区には23区の農地の約4割があり、地域の食を支える農家たちがいる。高齢化が進むとはいえ、練馬区では若手の農家たちが「人が来る農園」を目指して積極的な発信を行い、地域の食とコミュニティを支えている。しかしその一方で農業の後継者不足は深刻で、地域の食を守るため、人材の確保と持続的な農業を続けていくための施策が急務となっている。

「消費者との近さ」生かす

練馬区で「関口園」を運営する関口智久さん(2025年12月10日14時54分、東京都練馬区東大泉関口園)神田夏希撮影

 「消費者の声を聞くことができる。野菜を食べて喜んでもらえたらうれしい」と練馬区・大泉の関口智久さん(44)は語る。民間企業の営業職として働いていたが、東日本大震災のあと実家の農業を手伝う中で農業の魅力に気づいた。農地を手放すのはもったいないという思いを抱き、迷った末に脱サラし実家の農業を継いだ。練馬区で盛んなキャベツや大根のほか、キュウリやトマト、柿やゆずなど、30種類以上の作物を育てている。少量多品目を育てるのは都市農業の特徴だという。土地は広くないが、住民の需要に応えて幅広い種類の作物を少量ずつ育てる農家が多い。

 育てた作物はJA農産物直売所に卸したり直接販売したりすることで利益を得ている。直売できることは都市農業の強みだと関口さんは語る。収穫した作物を、農地に併設する直売所ですぐに売ることができるため、中間業者を通さずに安く、新鮮な状態で販売することができる。農地周辺に多くの人が住んでいるという都市部の特徴が活き、直売所に多くのお客さんが来てくれる。安く新鮮な作物を届け、地産地消に貢献するだけでなく、直売所での人付き合いは関口さんのやりがいにつながっている。「この人が作っているとわかる。だからこそより丁寧に、安心安全な野菜を作りたい」と語る。

吉田真理子さん
田柄すずしろ農園を運営する吉田真理子さんと、農園で育てている練馬大根(2025年12月7日15時24分、東京都練馬区田柄すずしろ農園)神田夏希撮影

地域の人と人とをつなぐ

 吉田真理子さんは練馬区で、体験農園である「田柄すずしろ農園」を営む。体験農園は地域住民に農地の1区画を貸し、農家の指導のもと収穫を行うという取り組みだ。区画を予約すれば、住民は自分の好きなタイミングで野菜を収穫し持ち帰ることができる。吉田さんは、「いろんな境遇の人も、ここでは平等」だと語る。

 幼稚園児、小中学生から会社員、高齢者まで、様々なバックグラウンドを持つ人々が休日の農園に集まり収穫を行う。世代を超えた交流が生まれ、地域のコミュニティを形成している。「人の喜びを感じられることがやりがい」だと吉田さんは語る。農家になる前は民間企業のマーケティング職をしていた。コロナ禍に実家の農業を手伝ったことを機に、お客さんの顔を見られることに喜びを感じたという。前職での経験も活かし、ホームページやインスタグラムでの積極的な発信や、近所のレストランへの野菜の提供を行っている。紅大根やイチジクなど、30種類以上の一風変わったカラフルな野菜を育てており、「映え」を意識した新たな農業で、地元の人たちに農業に興味を持ってもらうため活動している。

カラフルな野菜を売る田柄すずしろ農園の野菜ロッカー(吉田真理子さん提供)

都市農地の減少 野菜の安定供給に課題

 都市農地は食料の安定供給のみならず、防災や都市環境の維持、農業体験など多様な機能をもつ。しかし都内の農地は年々減少しており、東京都産業労働局の統計によれば都内の総農家数は1990年の20679戸から2020年には9567戸と半分以下に減少し、1960年の調査開始以来、初めて1万戸を割り込んだ。

 農地減少の裏には農家の減少だけでなく、相続税の負担が大きいという問題がある。都市部の開発が進んで都市環境の悪化が生じたことを背景に、都市農地を守る取り組みとして1974年に生産緑地制度が創設された。都市部において生産緑地として指定を受けると、固定資産税や相続税の優遇を受けられる一方で、建物の建設や売却が規制され、一定期間の農業経営が義務付けられることになる。そのため家族が農業を継がないなら、生産緑地の指定は解除されることになる。その場合農地の相続税優遇を受けられず、都市部の高い地価に基づく高額の相続税がかかってしまう。そこで納税のために農地を売却したり、節税のために農地だった土地に貸しアパート等を建てたりする人が多く、これが農地減少の原因になっている。練馬区に住む元JA職員の島野隆行さんによれば、都市農家は不動産を持っている場合が多く、その収入があるから農業ができるが、農業単体で生計を立てるのは、よほど規模が大きくないと難しいという。人を雇うともうけが出ないため、農家の負担が重くなっている現状もある。食料の安定供給と地域のつながりを守るため、都市農地の保全に向けた動きが求められている。

練馬区で「吉田農場」を営む吉田智博さん(2025年12月14日12時06分、東京都練馬区田柄吉田農場)神田夏希撮影

 美味しい野菜を届けるために 関口さんは「農家を魅力ある仕事にしたい」と語る。「『汚い、かっこわるい』イメージを『稼げる、かっこいい』に変えたい」。そのために若手の農家が集まって地元のマルシェに出店をしたり、取材を受けたりするなどの活動を行っている。練馬区で農業を営む40代の吉田智博さんは「農業に従事する人がいないと、野菜が高級品になってしまう」と危機感を募らせる。農業従事者が減少する中で、若い担い手の確保は急務だ。「人が来る農園」を目指し、まずは多くの人に地元の野菜を食べてもらい、農業の魅力を知ってもらうことが第一歩だと語った。