2025年10月19日日曜日

紺碧タイムズは早稲田大学ジャーナリズム学生のウェブメディアです。

ホーム大学ワセ飯のコロナ禍 学生と商店会の奮闘

ワセ飯のコロナ禍 学生と商店会の奮闘

「優しいのよ、街の人が学生に」

デリバリーで繋いだワセ飯文化と地域のきずな

 「優しいのよ、街の人が学生に」。2020年3月にコロナが日本を襲い、早稲田の街から人が消えた。早大生が愛する地元店の食事、通称「ワセ飯」もコロナ禍に苦しんだ。立ち向かっていくため、店の人たちと学生が取り組んだのがデリバリーサービス「わせくまデリ」。配達を担った学生たちに、街の人たちがいたわりで応え、早稲田の街の暖かみを再確認することができた。

誰もいない、早稲田の街

 早稲田大学北門の目の前にあるキッチンミキは長年にわたり学生客をメインに営業を続けている。600円で満腹になるまで食べられる飲食店だ。店主の山内康行さんは「(コロナ禍の時期は)大学周辺に人がいなかったです。日曜の朝くらい人がいなかったです。(実際に日曜日の朝に)来てみればイメージがわくと思いますよ」と語った。2020年は春から9月ごろになるまで学生が戻ってこず、1日に10人ほどしか来店しなかったという。

仕込みをしている「キッチンミキ」店主の山内康行さん(2025年5月30日午後16時33分、東京都新宿区西早稲田のキッチンミキ)池田亮太郎撮影

 行政が営業時間の短縮や三密の回避などを飲食店に呼びかけ、山内さんも対応に追われた。「対策のために1週間店を閉めました。ビニールのカーテンでカウンターとキッチンを仕切り、客席にもパーテーションを設置して。入店人数も制限して、7人まで」。厳格な対策を行い、行政に報告すると補助金を得られる。個人経営の飲食店にはこのような資金援助が頼りになった。

 キッチンミキではアルバイト店員として早稲田祭運営スタッフの学生が所属し、山内さんも大隈通り商店会の会長を務めていることから、学生との交流も多い。「(早稲田祭運営スタッフの部署の中の)早稲田祭と地域の商店会を結びつけるチームの子が毎年顔見せをしに来てくれるんですけど、(2021年)9月に対面で会いに来てくれたんですよ。そしたらうちの外で『初めまして』って言ってて」。同じ組織に所属していても、実際に顔を合わせたのはこれが初めてだった。コロナは人のつながりまで分断してしまった。

わせくまデリの開始 地域住民へのワセ飯宅配

わせくまデリを主導した佐藤靖子さん(2025年7月8日午後18時33分、東京都新宿区西早稲田のキュート整骨院事務所)池田亮太郎撮影

 大隈通り商店会の事務局長で整骨院を経営する佐藤靖子さんは生まれも育ちも早稲田。コロナが蔓延してもスーパーなどで近隣住民の方と世間話をする中で、ワセ飯のある店長に「UBER EATSのような宅配サービスをやりたいけど手数料が高くてできない」と相談を受けた。「当時のuberって35%の手数料がとられるのね。1000円のものを1350円で売るって意味ないじゃん。この辺の60代70代の人たちは(それに加え、uberに参加するための新しく設備を整えたりすることは)できない」と語り、佐藤さんが中心となってワセ飯のデリバリーサービス「わせくまデリ」の準備を開始した。

新サービスの構築とワセダの街の再発見

 2020年4月からサービスの構想を練り、5月から配達を開始した。配達範囲は大学から約2キロまで、学生が配達の担当をして一回の配達につき300円。ポスティングしたビラに記載されているQRコードから公式LINEを追加して注文をする。佐藤さんが経営するキュート整骨院が入っているビルの2階に事務所を設置し、注文を処理する事務員と配達する学生が待機した。注文が入ると自転車で店まで行って料理を受け取り、注文先に配達をする。

 配達の担当が学生となったことをこう回顧した。「スーパーに買い物に行ったら知り合いの学生がいたの。九州(出身)の。どうしたのって声をかけたら、その子が泣きそうになっちゃって。一週間ぶりに人と話したって。ほかにもそういう子が何人かいて。しかもバイトもクビ切られちゃったらしくて。じゃあuberをその辺の学生でやってみようと」。こうしてわせくまデリのサービスは始まり、初日には20件の注文が入った。初めての経験であり大変だった、と佐藤さんは語る。

 心に残った話があると言う。

 「優しいのよ、街の人が学生に。お駄賃とか、夏には凍らせたペットボトルとかタオルもらってきたりさ。すごい優しいの。普段街の人が学生に対してどう思っているか触れる機会はないからわからない。学生を温かく迎え入れてくれる街なんだなって」