大学生になると、歓迎会やサークルの集まりなどで酒が出される機会も徐々に増えていく。一方で、未成年者の飲酒や、先輩後輩の関係の中で断りにくい雰囲気が生まれること、酔った上でのトラブルなど、大学生活における飲酒をめぐる問題も指摘されてきた。こうした状況の中で、飲めない人や飲みたくない人が無理に酒を飲まされることのない環境づくりを目指し、ビールメーカーや大学などの関係者が連携した取り組みを進めている。
ビール会社「飲める人飲めない人、尊重しあって」
アサヒビールは、「責任ある飲酒」を企業方針の柱として掲げ、中でも「未成年飲酒防止」は最も重視するテーマだという。

「責任ある飲酒」の取り組みを担当するResponsible Drinking部の松尾直純さんは「業界の中でもここまで重点を置いている会社は多くない」と話す。社内ではeラーニングでの啓発を義務化し、新たに「スマドリアンバサダー」という資格制度を導入。スマドリとは、「スマートドリンキング」の略で、無理をしたり周囲に合わせたりではなく、自分の体質や気分、シーンに合わせてお酒との付き合い方を選ぶ考え方を指す。この考え方に基づき、アンバサダーら社員自らが地域や学校で啓発活動を行えるようにしている。
特に大学との連携が進んでいるという。新入生オリエンテーションや学園祭シーズンに合わせ、出張セミナーを実施。アルコールを受け付ける体質かどうかを、皮膚のテストで調べるアルコールパッチテストを通じて「自分の体質を知ること」の重要性を伝えている。
松尾さんは「20歳になっても、体質によっては飲めない人もいる。周りと違っても無理をしない意識が大切です」と強調する。
ノンアルコール飲料であっても「20歳以上向け」と明記し、販売場所を酒類コーナーに限定。SNS広告も未成年者に届かないよう設定しているという。
なぜアルコールを含まない商品まで年齢制限を設けるのか。松尾さんは「味やパッケージがビールに近い商品に未成年のうちから親しむことは、将来的な飲酒への心理的ハードルを下げる可能性がある。私たちは“飲酒の入口”を安易に広げたくない」と説明する。ノンアルであっても、酒類文化の延長線上にある商品である以上、未成年者を対象にしないという姿勢を明確にする。
また、「飲めば気分が上がる」といった表現や、酩酊を肯定するような広告表現は用いられていない。アルコールは一般に「気分を高揚させるもの」と捉えられがちだが、科学的にはエタノールは中枢神経を抑制する作用を持つ。飲酒によって「楽しくなった」と感じるのは、抑制機能が弱まり、心理的なブレーキが外れるためだとされている。こうした科学的知見を踏まえれば、「気分が上がる」と単純化した表現は正確とは言い難いからだ。誤解を招きかねない言葉遣いを避けることで、過度な飲酒や酩酊を助長しない姿勢を示す。
学生へのメッセージを尋ねると、松尾さんは「飲める人も飲めない人も尊重し合ってほしい。上下関係や伝統で無理やり飲ませる文化をなくすことが大切」と語った。
大学も「未成年飲酒ゼロ」目指す
早稲田大学学生生活課も、20歳未満飲酒防止に力を入れている。
学生生活課は「飲酒によるトラブルは年々減っているが、ゼロではない。特に強要的な雰囲気が問題」と指摘する。
大学では、新入生オリエンテーションや学園祭前後に注意喚起を徹底し、「20歳未満は飲酒してはいけない」と明確に伝えている。強要や飲酒による体調不良の通報は学生生活課や学生相談センターが受け付ける体制を整えている。
違反が発覚したサークルや部活動には、公認取り消しや活動停止など厳しい処分を下す。「一件でも重大な事故につながる可能性がある」として、保護者への連絡や、地元の警察・飲食店との協力も行っている。
「飲酒は最終的に個人の判断。しかし未成年の間は絶対に飲まないことが前提。学生には責任ある行動を望んでいます」と話した。
取材を終えて〜記者から
共通するキーワードは「尊重」と「ゼロ」
アサヒビールと早稲田大学―役割は異なるが、両者の取り組みには共通点がある。
それは、「20歳未満飲酒ゼロ」と「飲めない人を尊重する文化」の二つだ。
未成年飲酒は過去より減少傾向にあるものの、「飲まなければならない」という空気は依然として残る。企業は正しい知識と選択肢を提供し、大学はルールと支援体制で支える。この両輪で、学生が安心して過ごせる環境を整えることが求められている。
取材を通して印象的だったのは、どちらの立場からも「強制ではなく尊重」という言葉が何度も出てきたことだ。
お酒を飲める・飲めないという違いを越えて、お互いを尊重できる文化が広がれば、大学生活もより安全で豊かなものになるだろう。(吉田和真)
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