ペットでなく、人間とともに働いてくれる「職業犬」が注目されている。職業犬の1ジャンル、付添犬は、虐待やいじめの被害を受けた子どもが司法手続きや被害事実を確認する面接の際に子どもに付き添い、子どもの心理的負担を和らげるのが仕事だ。認定NPO法人「子ども支援センター つなっぐ」(横浜市)はこうした付添犬の活動を広げようと取り組んでいる。
被害者の心理的負担ケア

つなっぐは横浜市で子どもの権利擁護センター(Children’s advocacy center=CAC)を運営する。虐待や性被害などを受けた子どもを対象とした、誘導のない形で基準を満たした適切な手法による被害の聞き取りを「司法面接」といい、裁判など法的な判断が必要であればこの聞き取りの内容を提出できる。司法面接では被害者の心理的負担を配慮することが重要であり、つなっぐは司法面接の際にその負担を和らげる付添犬の活動を広げる取り組みをしている。また、司法面接に携わり、子どもをケアする専門職向けの研修を定期的に行っている。

付添犬の派遣は付添犬認証委員会という組織が行っており、付添犬の質の確保や適正な運用、日本における付添犬の普及啓発をしている。付添犬について、付添犬認証委員会の事務局長の山本真理子さんは、「アメリカの『コートハウスドッグス・ファウンデーション』(裁判所などで付添活動をする犬、コートハウス・ファシリティ・ドッグの普及啓発を行う組織)という団体が、元々裁判や司法面接でコートハウス・ファシリティ・ドッグを取り入れていた。その取り組みを日本版にアレンジして活動しているのが付添犬である」という。
マイペースで無理しない犬に適性

付添犬には適性があり、山本さんは「どんなに人が大好きな犬でも、無理させて負荷をかけるとどんな行動に転じてもおかしくないため、負荷がかからないように活動の様子を見ている」という。つなっぐ職員の力(ちから)さおりさんは「基本的にずっと寝ているような、マイペースで無理をしない犬に適性がある」といい、力さんの足元で休んでいたキース君を紹介した。
老人ホームで高齢者と触れ合うセラピードッグとの違いについて、山本さんは「事情聴取や裁判の中に入る場面は特に行動管理が求められるため、人が寄ってもおとなしくいられる、空気のような存在になれる犬が求められる」という。
山本さんは、「将来的にはアメリカのようにファシリティドッグになるのが理想だ。ファシリティドッグとは常勤している犬で、派遣されている付添犬とは違う」という。
付添犬、ハンドラー、CACを日本でも整えたい
山本さんは、「つなっぐは日本で2か所しかないCACの1つとして、子どもがワンストップで支援を受けられるようなシステムがあるが、子どもの支援の地盤が日本に整っていかないと付添犬の事業も広がっていかない。現在関東と東海で事業ができているが、他の地域では犬の供給やハンドラー、CACがそろっているところが限られているため同時に整えられるのは難しく、できるところから取り組むしかない」と話す。
山本さんは、「現在、誰が見ても基準がわかるような付添犬を広めていくためのガイドラインを作っている」という。
付添犬という存在を広めていく難しさについて、山本さんは「利用する側にも付添犬を詳しく知ってもらわなければいけないほか、犬、子ども、司法のこともある程度把握して、適切にその場で対応できるコーディネーターが必要なため、難しさはある。だが、付添犬は少しずつ知ってもらっているため、ガイドラインを作れば受け入れ側も気を付けるべきことがわかり、全国で司法面接の研修を行っていることも影響して、全国に活動の場ができるのではないか」と話す。
学生が主体的に動く場
つなっぐには学生インターンが5人いる。学生インターンの活動について、メンバーの1人である上智大学の嶋岡永珠さんは、「インターンに入ったらまず広報班に入って活動を始める。つなっぐで勉強して得た知識をSNSで発信する。また、研修や講演会の運営をサポートし、自分の興味ある分野を探す」という。

SNS運営について、「X、Instagram、Facebookをやっており、昨年5月から毎月1回ライブ配信で近況報告をしている。自分たちの世代で虐待は話題にしづらくハードルが高いため、自分たちの世代も動いて楽しくやっていることを伝えることを趣旨にしている」と話す。取材日の朝もライブ配信をしていた。
活動内容はこれらにとどまらず、「昨年つなっぐがつくった性被害調査(報告書)をもとに性被害に関する啓発活動を行うため、中央共同募金会、赤い羽根福祉基金から助成金を受け取り、それをもとに今は啓発活動している」という。
大学生が同世代に発信していく
嶋岡さんは、「データをもとに啓発していこうというのは前提としてあるが、何を大切にしていけばいいか話し合い、同世代に向けた発信が大事だという意見になった。まずは同世代に知ってもらうことが性被害や虐待から(子どもたちを)守る力になれればいいなと思っている」と話す。
インターンの小林由依さん(法政大学)は、「当事者の周りの人が、当事者から虐待について相談されたときに対応できること、また、当事者本人が関係機関や支援団体との連携にうまく対応できるようにすることが、最初に大切だ。親などに対しても虐待について相談された時の対応の仕方を伝えられればいいなと考えている」と、同世代に伝えることで上の世代も注目することを願っている。
大学生だからできることについて、小林さんは「一番大きいのは何のしがらみもなく自由に行動できること。設立5周年のNPOで大学生だからこそ試行錯誤して進められる」という。
嶋岡さんは、「大学入って何かやりたい、やってみたいけど何をやればいいかわからないことも多いと思う。何かやりたいけど『1人だと難しいかもしれない』と思う人たちと何かで繋がれば、いろいろな分野と連携しているつなっぐで、その人のやりたいことに繋がっていくと思う。また、今やっている性被害の啓発活動などが同世代に届ければいいなと思う」と話した。
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